誰にも言えない秘密の結婚
始業開始5分前。
事務所の電話が鳴った。
「空と海建築設計事務所でございます」
『あ、私』
私?
私って誰?
「あの、失礼ですが……どちら様……」
『あんたねぇ、同じ会社で一緒に仕事をしている先輩の声もわからないわけ?』
声の主は私が言い終わる前にそう言ってきた。
大きな声が受話器から聞こえ、思わず受話器を少し離した。
有本さんは出社して、藤原さんと話をしている。
…………と、言うことは、この電話の声は西山さんだ。
「し、失礼、しました……」
『社長に変わって』
「はい……」
私は電話を保留にして、パソコンに向かって仕事をしている社長に声をかけた。
「社長、西山さんからお電話です」
「ん?何番?」
「2番です」
「了解」
社長が自分のデスクで電話を取る。
口から溜息が漏れた。
仕事初日から西山さんも私に対してはこんな態度だった。
有本さんは後藤さんと同じで完全に無視。
後藤さん、西山さん、有本さん3人集まれば聞こえるように私の悪口。
そして、後藤さんは中学時代の武勇伝を語り、2人は私を見てニヤニヤ。