誰にも言えない秘密の結婚



リビングではなく、和室に通された私と藤原さん。


和室のテーブルの上には、ご馳走が並んでる。


会社の人を連れて行くと言ったから、お父さんもお母さんも女性と思っていたらしい。


それが男性だったから玄関に出迎えに来た両親は目を見開いたまま少しの間、固まっていた。



「初めまして、藤原拓海と申します」



藤原さんはそう言って、名刺入れから名刺を取り出して、お父さんに渡した。


それを受け取り、名刺をジーと見つめる両親。



「…………あ、えっ?副社長、されてるんですか?」



そう言ったのはお母さん。



「社員が7名しかいない小さな設計事務所で、その事務所も高校の時からの親友と始めて、親友が社長で僕が副社長なのですが、僕のメインの仕事が建築デザイナーなので、副社長は肩書だけみたいなもので……」


「あの、うちの娘が仕事で何か粗相をして、その……それで……」



名刺を持ったままそう聞いたのはお父さん。



「いえ、明さんは何も粗相なんてしてませんよ。凄く仕事を頑張ってくれていてます」


「そ、そうですか……」



お父さんはそう聞いて、少し安堵の表情を見せた。



「あの、今日は、明さんのご両親に大事なお話があってお邪魔致しました」



さっきまで安堵の表情を見ていたお父さん。


藤原さんからそう言われ、急に顔が強張る。


隣にいたお母さんもお父さんと同じ表情になっていた。




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