ミツバチのアンモラル
「圭くんはさ、私にすっごく優しい」
「華乃にだけな」
「……。圭くんは優しくて私に甘い。でも、撫でくり回すような、昔から変わらない優しさだけじゃ、もう辛い」
「……」
「かといって、圭くんの全てを犠牲にするようなのも、嫌だ。私しか見たことないような表情なんてして我が儘叶えてくれようとするなんて……、私だけだって、大事にしてくれるんだ。……勘違いを、よくしてしまう。そんなの、私が望んだかたちみたいだって。大事な妹だよってどれだけ言われたって私馬鹿たから舞い上がるし」
「そっ、か……兄貴キモいな」
「優花も言ってた。私もそうなんだってさ」
「馬鹿は……兄貴だけだけどな」
それからの車内ではお互いに言葉を発することはなく、自宅最寄りの駅に到着する。ここまで所要三十分ほど。改札を出て家までは約十分。交通の便がそんなに悪くない自宅は居心地も良くて、私がここを離れる日は果たしてやってくるのだろうか。
お隣の息子たちは?
智也は家業を継ぐから、多分離れることはない。圭くんは、いずれは工房ごと何処かにいってしまうのだろうか。……誰かと……妹なんかではない、綺麗な人と……。
「……事故なんてなければよかった」
「華乃?」
「なんで圭くんは事故のあと、あんなふうになったのかなぁ……」
事故の前に戻りたい。そうしたら、少なくとも、好きだと伝えられたいたに違いない。
そうしたら、こんなもどかしさに陥ってなんかいなかった。
例え、泣いてしまったとしても。
もうそこは互いの自宅のすぐそば。
足の長さに差がある故に先を歩いていた智也が振り返る。事故のことでも思い出してしまったのだろうか、その顔は、卒業式後に駆けつけたときと同じだった。
そうして、智也は私に告げる。
「華乃……――俺はそれを、知ってるよ」