ミツバチのアンモラル
 
 
私は、それを知れて良かったと思っているのに。
智也にそう告げても、兄より確かに真っ直ぐな弟は、まだまだ後悔を続けるのだろう。早く波打ち際まで打ち上げられて、陸に上がってしまえばいいと願った。


「――智也」


「ああ」


「ごめんね」


「なんで」


「だって、どんな話を聞いても、私はやっぱり圭くんが好きだよ。智也がどんなに腹を立ててたって、圭くんなんかやめとけって、たとえ言ったとしたって、私は圭くんが大好きだよ」


「他の女といたような兄貴でも?」


「私はそれを見てない。頭が痛んだのは、もしかしたら関係あるのかもしれないけど、覚えてないのは見てないと同義だよ」


「あんときだけのことじゃないんだぞ」


「うん……そう、だね」


あまたなことだ。
どれだけ、私が圭くんの胸の中に飛び込んだというのか。
昔から、圭くんの胸の中には、圭くんではない香りがあった。それに気づかないほど馬鹿でも鈍感でも蓄膿症でもない。その意味だって。


最後に戻ってきてくれればいいという港の女気分のようなものではない。傷む心も当然にあった。


けれど、私はどうしたって、圭くん以外に目がいかないから。
傷つくのは私のせいもある。圭くんがどんなに躱してきたって、言ってしまえば良かったのだ。
智也の言うことが真実なら、圭くんと同じで、私だって終わってしまうのを恐れている。
ずっと一緒で身近にいた関係は、とても幸福で、とてもとても、失い難い拠り所なのだ。


私はもしかしたらとてもおおらかで、どんと構えられる女なのかもしれない。……それか駄目男を好きになる達人か。
不安定に乱れる人を、それだけな人ではないと、今もこんなに想っていられるのだから。
けれども、それで圭くんをずっと好きでいられるのなら、幸せなのだとしておこう。


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