ミツバチのアンモラル
「その汚い中身と手で華乃に触れるのかよ、とかも言った」
だからだと、智也は悔いもしていた。
圭くんが異常に過保護になったのも、今に続く不安定な心情も、原因はそこにあるのだと。
私が想いを告げさせてもらえない理由も、それなのだと。
もう私に――華乃に金輪際近づくなと怒鳴り散らした智也に、圭くんは何も言えなかった。
その王子様なかんばせを蒼白にさせ、身体は震えて。意識を失わなかったのは、私の状態を自らで知るまではと踏ん張っていたことに尽きるようだった、らしい。
「もしかしたら兄貴は、俺が責めなかったら、いつか華乃を好きだって声に出してたかもしれない。けど、俺が言ったから、華乃をそんなふうに大切に出来なくなった。…………でも、兄貴には華乃から離れることなんて無理だった」
けれども、好きだとは決して告げないから。
それを免罪符に、圭くんは私の世話を焼いた。過保護なほどに。
「華乃が近くにいないなんて考えも出来ないんだ、あいつは。もう、華乃の傍にいるにはって、これしかないって、兄貴は華乃に綺麗なものばかりを見せて与えて甘やかす。甘い蜜だけを華乃に運ぶ。自分から離れられなくさせながら、華乃からのわかりやすい好意に安堵して、でも核心を華乃から言われたら応えられないから、そこで関係が終わってしまうからそれは遠ざける。どうにも出来ない鬱憤を晴らす手段として、やっぱり昔の悪い癖に習って他の女を利用する。そうしなきゃ華乃をいつか傷つけるからって、言い訳しながらな」
「……」
「訳わかんねえよな」
そうして、智也は頭を下げた。大きな大きな息を吐いて、すまないと。
智也も苦しんでいたのだ。私の忘れた記憶を抱えて憤って、けれどそれを一生出来なかったことを後悔していた。