キミの音を聴きたくて


「では、僕はこれで」



そんな声がして、ガチャリと開いていくドア。



あ、この状況はダメだ。
そう思った時にはもう遅かった。





そこから天音先輩が顔を出して。



「え、陽葵……?」



困惑した彼の声が聞こえてくる。




あぁ、もう。
バレてしまった。
隠せなくなってしまった。



言いたいことも、反論したいこともたくさんある。



それよりも今は逃げ出したい衝動の方が大きい。



でも、何も答えずにその場で顔を落とす。




「あら、帰っていたのね。
これから晩ご飯……」



「いらない」



お母さんの言葉を遮って、冷たく言い放つ。



こんな気分のままご飯を食べられるほど、私の精神は安定していない。

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