偽りの婚約者に溺愛されています
ネクタイを緩めながら歩く彼は、疲れた表情をしている。
ここまで、慌てて飛んできたのだろうか。
なんのために?理由を知るためだけなのだろうか。
「あの、智也さん」
「今度は俺の質問に答えて。夢子はなにがしたいの」
もっと聞きたいことはあるが、冷静に彼の問いかけに答える。
「修吾さんは……結婚を急かされて困っていました。あなたが私を救ってくれたように、私も彼の力になろうと思った。それだけです」
「俺と別れて修吾と付き合うつもりだと?」
「私たちは付き合ってなんかいません。私がどうしようと、智也さんが困ることはないですよね」
立ち止まり見つめ合う。
本当はこのまま、あなたが好きだから私だけのものになってほしいとすがりたい。
偽物なんかより、本物になりたいと願っているのは、私のほうだ。
「婚約者がいるんですね。じゃあこのまま、恋人のふりはここで終わりましょう。契約は終了です。私も修吾さんとのことを、真剣に考えてみてもいいのかもしれません。実際にお会いすると、とてもいい人だったので」