偽りの婚約者に溺愛されています
「代わりなんてしなくてもいい。この契約は終わらないから」
息を切らせて智也さんが言う。
修吾さんは呆れたようにため息まじりで彼を見た。
「なんなの、本当に。兄さんは偽物だろ?いい加減、桃華とのことを真剣に考えろよ。あいつは本気で兄さんを好きなんだから」
「お前、本気でそう思ってるのか?」
智也さんが修吾さんを睨む。
「桃華が好きなのはお前だ。お前がフラフラしてるから、振り向いてほしかったんだよ。俺と婚約したのも、お前へのあてつけだ。わからないのか?」
修吾さんは一瞬目を見開いたあと、智也さんを睨み返した。
「適当なことを言うなよ。夢子さんを取り返したいだけだろ?」
「じゃあなんで、あいつがお前の見合いの場所にわざわざ来るんだよ。気になっていたからだろ?」
私はなにがなんだかわからず黙っていた。
智也さんの婚約者が、修吾さんを好き?
「お前たちは不器用だから。お前は女遊びに興じて、桃華は俺との結婚を早めたがる。お互いにあてつけて、誤解してるんだよ」