偽りの婚約者に溺愛されています
必死で走るが、早すぎて追いつけない。
まさかこのまま、ボールに触れることもなく終わるの!?

負ける……っ!

そう思った瞬間、ゴールの下で彼の足がピタッと止まった。

ドリブルをしたまま私を振り返る。

私も走るのをやめて彼を睨んだ。

「……このままスピードだけで勝ってしまうと、あとから君に恨まれそうだ。チャンスをあげる。俺はもうここから、一歩も動かない。俺からボールを取ってみな」

ゆっくりとドリブルをしながらニヤニヤしている彼からは、簡単にボールを奪えそうだ。

「情け深いんですね。ありがたいですが、その隙は致命傷ですよ!」

そう言った瞬間、彼に向かって飛びかかるようにボールを奪いにいく。

それをサッとよけながら、彼はまだ余裕顔だ。
両手両足を動かし、隙を探す。

「ほら。抜いてみて。まだやれるだろ?」

息を切らしながら必死になる。

本当に早い。どうしても、彼の持つボールに触れない。まるで私の動きを、予測しているかのようだ。
彼のボールを扱う手さばきは、もはや神のようにさえ思える。
これまでにも、ここまでのスピードの選手には会ったことがない。





< 156 / 208 >

この作品をシェア

pagetop