偽りの婚約者に溺愛されています
「修吾さんが夢子の見合い相手で、その縁談がうまくいけば、彼がササ印の後継者になる予定だった。グローバルスノーには、優秀な後継者がすでにいたからね。……それが君だった」
まだ話の先が読めない。もどかしさと戦いながら、黙ったままで聞く。
「だがその前に、夢子の恋人として君が現れた。グローバルスノーを継ぐための研修を、このササ印でしている君がね。あとわずかで、君は経営陣側に異動する予定だった。さらに真髄まで学ぶために」
社長は振り返って俺を見る。
表情は意外にも穏やかだ。口調からして、険しいものとばかり思っていた。
「松雪社長とは、古くからの友人だ。俺は彼を信頼しているし、彼も俺を大切な友として考えてくれている。大切な後継者を、俺に預けるほどにね」
「ですから俺はここで、これからも夢子さんと__」
「ササ印とグローバルスノー。正直なところ、後継者が修吾さんからお兄さんである松雪くんに、変わっただけのことだと簡単に考えていたよ。君たち兄弟は、どちらにしても優秀だ。ササ印にとっては、願ってもない幸運だ。うちの後継は、夢子ひとりだからね。どちらが来てくれても、大歓迎だ」
真剣に話を聞く俺に、社長はにっこりと笑った。
「夢子の恋人が君だったことは、誤算ではあったが奇跡にも近い偶然だった。だが、事情を知ってしまったなら、そうも言えなくなった。……まさか君に、夢子以外の婚約者がいたとはね」