偽りの婚約者に溺愛されています
そのとき、車が停まった。
『智也さま。到着いたしました』
運転手の声がスピーカーから聞こえる。
「ありがとう」
彼が答えると、運転手がドアを開けてくれる。
降りると目の前に、あの日のままのホテルがあった。
彼の肩にぶら下がり通過したフロントに、今日は自分の足で向かう。
あの日と同じ部屋を取ると、彼は私を見て微笑んだ。
「行こうか。今日は逃げたりするなよ」
差し出された手を握る。ギュッと繋ぐと、早足で歩き出した彼に付いていくため小走りになる。
「もっとゆっくり歩い__」
彼に向かって言う私に、彼が言う。
「待てない。早く抱きたい。今すぐに」
ストレートな言い方に、顔が火照る。
それ以上はなにも言わないで、私は彼に必死で付いていった。
部屋に入りドアを閉めた瞬間、彼が振り返った。
ドアに私を押し付けるようにしながら、激しく唇を合わせてくる。
「待っ……!んん……っ」
息ができないほどに性急なキスは、私の身体の奥から愛しさを溢れさせていく。
彼のシャツを夢中で掴んだ。
「夢子……。愛してる」
掠れた声が耳の奥へと抜けていく。
どうなってもいい。あなたにすべてを委ねたまま、あなたのものになりたい。このままなにも、考えられなくなるほどに。
彼の手が、私のシャツの胸のボタンを外していく。
「悪い……。余裕がない」
露わになった私の胸に、彼の唇が押し当てられた。
「あ……」
初めて感じる感覚に、足が震えて倒れそうになった。