偽りの婚約者に溺愛されています
そんな私の様子に気づいた彼が、私をサッと抱き上げると部屋の奥へと運んだ。
ベッドの上に私を下ろし、真上から見下ろす。
その目が苦しそうで、私はそっと手を伸ばすと彼の頬に触れた。
『処女相手に鬼畜じゃない』と、以前彼が言っていたのを思い出し、いざこうなり、戸惑っているのだと分かる。
「あなたの……好きにして。いいの。あなたに溺れてみたい。教えて。これからどうなるのか……。こんな気持ちは、初めてなの……」
私が言うと、彼はフッと笑う。
「究極の殺し文句だ。君はどうやら、俺の理性を根こそぎ奪うつもりらしい。想像以上に可愛くて……目眩がしそうだ」
「想像してたの……?」
「当たり前だろ。黙って……」
その直後、彼の唇が、その手が、私の身体中を解きほぐすように優しく触れてきた。
私自身が知らなかった感覚を、まるで彼のほうがすべて知っているかのように動き回る。
その動きに合わせ、私の口から甘い吐息がこぼれた。
互いの衣服が一枚ずつ取り払われるたびに、彼の素肌の熱を感じる。
「夢子……綺麗だ。君はもう……俺のものだから」
意識が遠のくようになりながら、彼の声をただ聞いていた。
本当に、私は綺麗なのだろうか。筋肉質で、小枝のような身体だと、ずっと思ってきた。こんなふうに男性に抱かれることなど、おそらくないのだと。
「本当に……?ほかの人よりも?幻滅してない……?私のいったいどこが__」
尋ねると、彼は私の肌から唇を離して私を見た。とろっとした甘い視線からは、溢れるほどの愛情が感じられる。
「まだそんなことを言ってるのか。じゃあ、分からせるしかないな。……夢子が綺麗だから……もっと触れたくて……今の俺が正気じゃないことを」
そう言って、私の片脚を持ち上げると、太股にキスをしながらこちらを見てニヤッと笑う。
「なに……?」
「教えてあげる。……君は魅力的な女だと。誰よりも俺を狂わせていくとな……」
彼がそう言った瞬間。
「ああ……っ」
もうなにも言えなくなってしまう。吐き出される言葉が、すべて吐息に変わっていく。
彼に身体を作り変えられているような感覚だ。
その滑らかな背に、必死でしがみつく私を、彼は愛しそうな視線でずっと見ていた。