偽りの婚約者に溺愛されています
「大げさだな。ああ、そうだった。ダイヤモンドよりもボールのほうが、価値があるんだったっけ」

水を得た魚のように、彼女はドリブルをしながら俺のそばにやって来た。

「学生時代に、プロを夢見ていたことがあって。禁止されなければ、きっと今もこうしてプレイしていたわ」

「喜んでもらえてよかった。じゃあ俺はもう行くよ」

車に乗り込もうとすると、身体がグッと止まり振り返る。

見ると夢子が俺の上着を掴んでいた。

「なんて言ったらいいか、わからないけど。……私もなにかしたいです。智也さんが望むことはなんですか。このままじゃ、あまりにも__」

俺は車に乗るのをやめて、彼女のほうを向いた。

「なにも望まないよ。君が悪いわけじゃない。俺が勝手にしたことだ」

「……お金をもっと用意したらいいですか?」

彼女が言った言葉に息を飲んだ。

「あの金額では足りませんよね」

黙り込んだ俺を、不安な顔で見つめる彼女を、思わず睨んだ。


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