偽りの婚約者に溺愛されています
「俺の女だと?まさか、夢子さんの恋人って……」
なにかを悟ったように、私たちを見上げる修吾さんに、智也さんは足を止めて振り返らないまま言う。
「夢子と結婚するのは俺だ。お前じゃない」
「兄さん!正気か?桃華はどうなる」
彼の問いに答えないまま、智也さんは私の手を引いたまま歩きだした。
ドアを閉めて、廊下に出る。
フーッと大きなため息をついて、彼は私を見た。
「説明してくれ。見合いはしないんじゃなかったのか」
「あの……どうしてここに」
「仕事が早く上がったから、予定を大幅に切り上げて帰ってきた。社に戻ると君が有給を取っていたから、帰る途中で社長への土産を持って、君の家に行ったんだ」
彼の説明をそこまで聞いて、お母さんが話したのだとわかった。
お見合いとは言わなかったが、仕事で、お父さんとここの料亭に行くと話してある。
「ここに入ってすぐに、叔母と社長が一緒にいるのを見て、見合いだと悟った。まさか君の見合い相手が修吾だったとは驚いたがな。叔母は修吾の縁談で頭がいっぱいだから、間違いないと思ったよ。彼らにバレないように、ここまでたどり着いた」