恋愛預金満期日 ～夏樹名義～

　彼はテーブルの上の水を一口飲み、落ち着きを取り戻すように大きく息を吸った。


「僕があなたを迎えに行かない訳が無いでしょ。僕がどれだけあなたを想っているのか知っているはずです……」


「私だって、迎えに来ないはずが無いと思っていました。でも、朝まで待っても来ないあなたに、自分の思い上がりだったんだって……」


　私はあの時の空港での事を思い出し唇を噛んだ。


「えっ！　朝まで待ったんですか？」


「しばらく待っていたら、終電が無くなったんです」


「そんな……　すみません……」


「私の方こそ……　私のせいで事故に……」


「違います。それは僕の不注意ですから。でも、どうして連絡くれなかったんですか？」
　彼の口調には初めて聞く苛立ちがあった。


「えっ。だって約束だったじゃないですか？　他に好きな人が出来たら迎えに来ないって。だから連絡なんか出来る訳ないじゃないですか？」


「でも、美也さんとか、沖田建築の方とか。僕はあなたを探し回ったんですよ」


　えっ……　　

　探してくれていたんだ……　

　しまった、私のミスだ……


「あっ。それが……　私、オーストラリアから戻ってすぐ、昔の携帯を洗濯機に入れてしまって……　全部、データー消えちゃったんです。それで、誰とも連絡取れなくなって……」
　私は申し訳ない気持ちで下を向いた。


「そ、そんな……」


　彼は何とも言えない苦しそうな顔をしているが、私だって言いたい事はある。


「でも、私、美也さんに会いに、銀行行ったんですよ。でも、赤ちゃん出来て退職したって聞いて……　神谷さんも窓口に居なくなっていて……」


「そんな最悪……」
　彼は頭を抱えてしまった。


「それに！　私、海原さんに会いに、東京に行ったんですよ」


「いつ？」

　彼は物凄く驚いた顔で私を見た。


「帰国して、二か月くらい経ってからかな？　ちょうど昼休みで、銀行の前の公園で、楽しそうに女の人と、手作りのお弁当食べていたから……　やっぱりって……」


　そうよ、私だってあなたのせいで辛い思いしたんだから……

　あの女の事どう言い訳するつもりよ！