恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
 部長さん達がテーブルに近づいて来るのが見えた。
 食事が済んだようだ。


「私達はこれで失礼するよ」
 部長さんの言葉に私達は立ち上がった。


「部長、本当に今日はありがとうございました」
 彼が深々と頭を下げたので、私も続いて頭を下げた。


「まさか、こんな事があるとはなぁ……」
 部長さんも不思議そうな顔をしている。


「お話し聞こえてきてしまって、ごめんなさいね…… 本当にこんな不思議な偶然が、あるものなのね? 運命かもしれないわね」

 奥さんの握ってくれた手が優しくて、どんな巡りあわせでこうなったのかは分からないが、感謝の気持ちでいっぱいになった。


「部長! 僕は部長の元で働かせて頂けて感謝しています」
 彼が私の心を代弁するかのように部長にもう一度頭を下げた。


「おいおい…… ここで言うセリフじゃないだろ? 頼むから仕事で言ってくれ」
 部長さんはやれやれと言った顔で彼を見た。


「多分、仕事より感謝しています」

 彼は興奮して口に出してしまったとは思うが、私は吹き出しそうになり、そして彼のこういう真直ぐな姿が好きだと思った。



「お前は、恋愛も仕事も不器用だけど確実に手に入れる男だな。それにしても良かったな。家内の見合い好きも、ただのお節介とは限らないみたいだなぁ」

 部長さんは彼の肩を叩き、私にも笑顔を向け出口へと向かって行った。


「まあ。お見合いだって、運命の出会いだと思わない?」
 奥さんもそう言い残して、部長さんの後に続いた。


「本当に面白い男だ。夏樹ちゃん、私も帰るぞ」
 おじさんは、又、笑いながら去って行った。


 おじさん、さっきは騙したなんて人聞きの悪い事言ってごめんなさい…… 
 洋服もありがとう…… 
 奇跡の再会に、めいっぱいお洒落して彼に会えて良かった……


 今は言えないけど、後でちゃんとお礼します……
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