恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
「そろそろ、僕達も行きましょうか?」
 彼の言葉に私は肯いた。


 外へ出ると、辺りは薄暗くなっていて寒に体が震える。


「わー。寒い」
 私は思わずマフラーに顔を埋めた。


「僕、暖かい場所に、転勤の異動願い出そうかな?」
 彼は私の姿にぼそっと言ったが、彼は本当にやりかねないので焦った。


「そんなのいいですよ…… お仕事へ支障を出さないで下さい。それに、寒い時があるから、暖かいって感じるんですよ……」
 私はチラッと彼の目を見た。


 すると、彼が近付き覆いかぶさるように両手で私を包んだ……


 突然の事に私の方が戸惑ってしまった。


「まだ、寒いですか? すみません…… 勝手にこんな事……」


「暖かいです……」

 本当に暖かい……

 彼の胸の鼓動が伝わってくる……


「僕が側に居ます…… 絶対に…… だから、もう一度聞いてもいいですか?」

「はい……」

「僕は、あなたが好きです。僕と、結婚して下さい……」


「はい。私もあなたに会いたかった……」


「本当ですか?」


「ずっと、探していました。この、暖かさを…… あの時、手放すんじゃなかったって、後悔した事もありました。でも、あなたが、待っていてくれると思ったから、オーストラリアで頑張る事が出来たんです」


「すみません。遅くなって……」
 彼の抱きしめる腕が強くなって、彼の胸の中にいるという現実に胸が熱くなった。


 もう、絶対にこの胸の暖かさを失いたくない……

 私の気持ちもちゃんと彼に伝えなければ……


「いいえ。でも、一つお願いがあるんですけど……」


「なんですか?」

 彼の少し不安になった顔に又悪い癖が……


「あの…… 今日、長野に帰る予定なんです……」


「えっ。そんな……」


 彼のあまりのショックな顔に嬉しくなる。

 ねえ、私の方から誘っていい?


「でも…… 予約してあったバスが行っちゃったんですよね…… どうしよう? 一緒に居て頂けませんか? 一人でいたら、悪い人に連れて行かれちゃいますから……」

 私は彼の腕の中から伺うように見た。

 驚く? 
 それとも困る? 
 もしかして嬉しい? 
 どんな顔をするのだろう?


 しかし…… 彼は熱い目で私を見た。

 
 そんな目で見られたら私のいたずら心は、彼への熱い思いへと変わって行ってしまう……

 彼の手が、私の頭の後ろに回ったかと思うと同時に唇が重なった…


 優しくて、暖かい口づけ……


 こんなの、反則だよ……


 私の負けです……


 私だって、ずっとずっと……


「すき」


 やっと、言えた……


 私の目から涙が毀れ落ちた……

 彼の指が優しく涙を拭う……

 暖かい手……


  彼の唇がもう一度重なり

  今度は、深く…… 深く…… 

  唇を奪うように……


  何度も… 何度も……
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