偽りのフィアンセ
「一目惚れしちゃったみたいで」
男があたしを見て微笑む。
「……!ジンくんやめとけ!こいつはマジで顔だけ……っておい!蹴るなってさっきも言っただろ!」
失礼極まりない山口を睨み、男に視線を移す。
「冗談は顔だけにしろよ」
あたしが目を細めて睨むような視線を向けると、男は更にその笑みを深めた。
「うん、ごめん。冗談ですよ山口さん」
爽やかな、だけど嘘くさい笑顔で山口にそう告げて、すぐにその視線をあたしに戻した。
「俺の婚約者のフリをしてほしい。仕事として」
「……仕事?」
「一月百万。取り敢えず半年。約者を演じてほしい」
「ふざけたこと言ってんじゃねーよ」
「……足りなかったかな?」
「金はいらない。貸しにしといてやるよ」
あっさり承諾したあたしに、「はぁ!?」と上擦った声を上げたのは勿論山口だったが、さすがに男も驚いたようで、ようやく男の顔から笑みを消せたあたしは、勝ち誇ったように口角を上げてみせた。