偽りのフィアンセ


──西村麗香(ニシムラ レイカ)。

俺が俳優に転身するきっかけをくれた、西村将希(ニシムラ マサキ)監督の妹で、二年前……マサキさんが初監督を務めた映画に出演したときに、現場に何度か見学に来ていた彼女は、その撮影が終わった後に、頻繁に連絡をしてくるようになった。

今まで当たり障りの無いように、彼女の好意をかわしてきたものの、最近では自宅にまで押し掛けて来るようなり……どう対処するべきか、悩んでいるところだったのだ。

プライドが高く、嫉妬心が人一倍強いように見える彼女を恋人にする気なんて一切なかった。それを『妻』にするなんて尚更有り得ない。

「結婚する相手は自分で決めます」

父を真っ直ぐ見据えて告げると、それも予測していたらしい父はニヤリと笑った。

「相手はいるのか?」

「……」

「いないんだろ?だったら──」

「いますよ」

父の言葉を止めたくて、つい出任せを口にしていた。

「……ほう、どこの女だ?」

「教えませんよ、今は。裏で手を回されたら困るので」

その言葉に、父が口元に笑みを浮かべたまま目を細める。

「正式に婚約を申し込んだ後に紹介します」

「……今度、新作ドレスの発表を兼ねたパーティーがある。そこに必ず連れて来い。いいな?」

一瞬鋭い眼差しを向けた父の言葉の直後、タイミング良くジャケットに入れていた俺の携帯が鳴った。

「──はい」

『ジン、悪い。渋滞にハマっちまった。親父さんに別の送迎頼んでくれないか?』

マネージャーからの電話だ。申し訳なさげな声に、苦笑しながら頷く。

「山口、ジンの送迎頼む」

俺がその電話を切る前に、内容を察したらしい父は、その話をかけていた──。


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