偽りのフィアンセ


「嘘の情報?お相手の方は乗り気だったぜ」

左の口角だけを上げて笑う父に、苛立ちが沸き上がる。

「……仁、俺は嘘の情報を売ったつもりはねぇよ」

いきなり真顔になった父に、嫌な予感がした。何となく、父が次に何を言うか予想出来できてしまう。そして──。

「結婚しろ」

予想どうりの父の言葉に、俺は眉をひそめた。

「何を企んでるんですか」

「あ?」

「俺が彼女と結婚したとこで、貴方に何のメリットもないはずです」

「メリット?おいおい、仮にもうちの会社のファッションブランドの代表モデルだぞ?お前がこの女と結婚すれば、この女がライバルブランドに引き抜かれる心配はなくなる」

「そんな小さな理由で俺に彼女と結婚しろと?」

「ふ、言うなーお前も。まぁ、いいじゃねぇか。この女と仲良いんだろ?」

雑誌の中の女を、人差し指でトントンと叩きながら、父が目を細め俺を見上げた。

「別に彼女とは親しくないですよ。ただ、俺がお世話になっている監督の妹だから何度か会ったことがあるだけだ」

「でも、彼女は嬉しそうだったぞ?お前との結婚を提案してやった時」

ニヤリと笑い、頬杖をついた父に、眉根を寄せる。だから何だ。彼女が乗り気だから俺もその気になれと?冗談じゃない。

俺にとって今は一番大事な時なんだ。モデルから俳優に転身して数年。やっと自分の実力で仕事を貰えるようになってきて、 恋愛もしている暇すらない状態で結婚?

しかも相手が彼女なのは大問題だ。

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