エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
「火菜。おふくろさん助けに来てくれたな!顔をそっと見せてやれ!そして勇の所に行って話しを聞くんだ。俺もこの隙に外に出る。そして明日また来るからな。じゃあ。」

 与えられた時間はわずかだ。

 火菜はうなずくと階段まで走り寄って下を見た。

 相変わらず望が騒いで、

「ちょっと触らないで!離してよ!」

と一層大きな声で言うので、男たちも手をやいて、傍観するしかない始末だ。

 そこで一瞬だが、火菜と望の視線がしっかりとあった。

 それは本当に一瞬だったが、心を通い合わせるには充分な時だった。

 すると火菜はきびすを返して勇の所に行った。

(今しかない。お母さんがくれたチャンスを無駄に出来ない。)

 火菜は勇の部屋に飛び込んだ。

 望はそれをみて、

(火菜、お母さん少しはアナタの役に立てたのかな?)

 そう思うのと、捕まえられるのはほぼ同時だった。

 男二人に左右からガッチリと捕まえられ、両足は宙に浮いてバタバタしている。

 振り返って谷川を見ると、夫も同じ目にあっている。

(どうやらここまでのようだ。)

 望が観念すると、黒沢が言った。
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