エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

　ある男は慌てふためいて屋敷に戻りつつあった。

　望の見張りをしていた男である。

　先程、黒沢から怒りの電話を貰うまで、自分の冒したミスにも気付かず何の動きもない谷川家の見張りに飽き飽きしていた所だった。

　男は、のんびりと

（今日は家人の帰りが皆遅いなー。）

　ぐらいは考えていたが、

　見張りの対象の望がどこにも行かずに家でテレビを見ているようなので安心しきって、アクビが止まらない所に黒沢の電話だった。

　黒沢の怒りはかなりのもので、

「とにかく今すぐ戻ってこい。」

と言われて、慌てて戻る途中だったが、中条家から少し離れた所に思わぬみつけものをした。

「源だ！」

　男は源に気付かれないように車を止め、背後から近づくと後頭部をいきなり殴り付けた。

　源はその場に倒れ込んでしまった。