エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

　望は車に乗り込んで、ドアを閉めようとして、遠くで男性の呻き声を聞いたような気がしたが、中条家のものに見られては次の作戦が進行出来なくなるのでとりあえずワゴン車のスライドドアを力任せにバタンと閉じた。

　そして、横に座った谷川にいきなり抱きついた。

「怖かったぁ〜。」

　そう言った望の体はブルブルと震えていた。

「よくやった！よくやったよ望　俺も一瞬だったけど火菜ちゃんを見れたぞ！」

「私も。あの子大人びていたわ。私は会えただけでも良かったけど、なにかに役立てたかしら？」

「ああ、少なくとも突破口にはなったハズだ。　それじゃあ皆さん、そろそろお願いします。」

と、テレビマンに扮した三人の男女に言った。

「ああ、良かった。自分たちの存在が忘れられてるかと思って心配してたんすよね。」

　黒ブチの眼鏡をかけて人の良さそうなインタビュアーを演じるケンがシレ〜っとそう言ったので車内に笑い声がおきた。

　望は赤くなってそっと谷川から離れた。