エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 屋敷の中では、家政婦の里子が一番に起きだし、皆にモーニングコーヒーを振る舞った。

 黒沢は答えの出ないまま、うつらうつらした自分に舌打ちしたが、少しでも寝たせいか、コーヒーが体中に染み渡り頭が冴えてきた。

 とりあえず、ペンダントは、ブローカーが拉致する所に立ち合って渡してもらうしかないと思った。

 この時はまだ黒沢は、自分は最後までここに残り火菜たちを引き渡すつもりでいたのである。

 そして、残るは源の始末だが、出来る事なら後で遺体がみつかった時に『事故死』と判断されるように片付けたい。

 そう思っていたらふと、昨日、熱中症で倒れた男の事が頭をよぎった。

 今日も、昨日に引き続き35℃を越える真夏日になりそうだと目の前のテレビでニュースが伝えている。
(これを使えないか!?)

 黒沢はそう思いつくと序々に考えがまとまってきた。

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