エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 黒沢は屋敷に着くとすぐ、黒の車の中を見た。

 まだ、誰も乗っていない。

 奴らは無事、火菜と勇を捕らえただろうか…。

 そう考えながら屋敷の中に入って行くと、

 捕らえられているのは、勇と弥生だった。

 黒沢は部下に

「火菜はどうした!?もしかして、逃げられたのか?」

と詰め寄った。

 男は焦りながらも、

「それが源のヤツが、手引きして逃がしやがったもんで…」

と弁明した。

「何!?源が!!!生きていやがったのか…」

 黒沢は自分の失敗に足を取られた事に気がついた。

 呆然とする黒沢をボスとみて、ブローカーのリーダーが話し掛けてきた。

「何か手違いがあったみたいだな。こっちは十代の若い男女と聞いていたが、話しが違うな。」

 その男は真っ黒いサングラスを掛けていたが、レンズの奥に潜む特殊な威圧感は、黒沢のようなひよっ子を全く寄せ付けない狂気を漂わせていた。

(これが、裏世界のプロだ。約束を守らなければ、俺も消される。)

 黒沢がブルっていると、男は、

「まあ、いい。その女を代わりに頂いていく。ピチピチとは行かなくてもまだ40前後だろ!?」

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