エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 火菜と源はしばらく全速力で突っ走ると、先に息のあがった源が火菜に言った。

「よし!そろそろタクシーを拾うぞ。まさかこのまま空港まで走って行くわけにはいかないからな。」

 まだまだ余力のある火菜は、このまま風を切って走りつづけたい気がしたが、辛そうな源を見たら、

「うん。分かったよ。」

と言った。

 火菜は勇の事が気掛かりで、逃げなければという『危険信号』と勇を助けに戻りたい『恋心』が互いにぶつかりあっていた。

 だからもし、今ここでタクシーに乗ってしまえば、益々、勇との距離がひろがってしまう事を懸念したのだ。

 タクシー乗って、呼吸が整って来てもなかなか二人は話せずにいた。

 源にも火菜の気持ちが痛い程わかるからだ。

 すると、火菜が口を開いた。

「やっと分かったよ。あの時、勇はお母さんを助けにいったんだね。」

 源は頷くと、

「ああ、きっとそうだ。そうに違いない。」

「最初から勇は、お母さんの事も救うつもりだったんだ。エライね。強いよ勇は!」

「そうだな。本当の勇気を持った男だ。」

 そう言って源は

「あっ!!」

と気が付いた。
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