俺様社長と極甘オフィス
「朝食はまだとっていらっしゃいませんよね? 二階のカフェのエスプレッソとパニーニを部屋まで運んでもらうよう頼んでいます。それを召し上がってください」

「そこまで手を回すとは、さすがは藤野」

「おだててもなにも出てきませんよ。急いでください。九時からHimmel社との商談です。第三会議室を押さえていますから」

 淡々と用件を告げて今日のスケジュールを報告するのを、彼はパソコン画面に釘づけになりながら聞いている。これでもちゃんと聞いていると分かっているので、そのことについてはなにも言わない。

 五十五階建てビルB.C. square TOKYOの八階から十階に拠点を置くB.C. Building Inc.は世界各国にビルを所有する大手不動産会社だ。

 それに見合うだけの広すぎる社長室はどうも落ち着かず、私はまだ慣れない。彼はまったくそんなことはないようで、ずっと前から自分のものだったかのように違和感なく使いこなしている。

 どこかのギャラリーを思わせるような広々とした落ち着いた空間。来客用ソファは大人ひとりが寝転がってもまだ余裕があるほど大きく、傍らに飾る花は僭越ながら私が選んでいる。

 今は、九月に入ったこともあり、まだ外は暑いが、秋を感じてもらおうと秋の七草である菊などもいれて、オレンジ色でまとめていた。その花を選ぶのも、最初は戸惑ったりしたが、今では楽しみのひとつになっている。

 私、藤野七海(ふじのななみ)が彼の秘書になって、そろそろ二年になろうとしていた。

 彼が社長に就任したのは、かれこれ四ヶ月前。新年度に入り、そろそろ落ち着いてきたゴールデンウィーク明けのこと。
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