俺様社長と極甘オフィス
 その日、社長は宣言通り、予定していた時刻を繰り上げて業務を終了させた。一緒についていった金本さん曰く、会議も社長本位で進めていき、先方があまり口を挟む暇もなく上手くまとまったらしい。

「お疲れさまです」

「藤野もお疲れ。今日は会食もないし、久々に藤野と飯が食える」

 べつに約束した覚えも義務でもないと思うのだが。しかし断ることもない。五十二階の件について話を進めなくては。きっと社長がこうして仕事を必死に繰り上げたのも、そのためなのだろう。
 
「にしても、名前じゃないのか。ここまでノーヒントだと、なかなか難しいな」

 グラスを置いた社長が、どこか疲れたような顔で告げる。五十三階に連ねる高級レストランの中でも一際格式の高いここは、完全個室でフレンチが楽しめる。

 ミシュランで三つ星を獲得し、政治家や有名企業の重鎮たちもよく利用しているそうだ。白とシャンパンゴールドを基調とした店内は、どこか高貴な雰囲気だった。

 おそらく社長の秘書にならなければ、こんなところに一生来ることはなかっただろう。初めて連れて来られたときは、緊張のあまり料理の味もほとんど分からなかったくらいだ。

 分不相応だとは思うけれど、完全個室という点は密談をするのに有り難い。すぐ横に視線をやれば、東京の街が一望できた。

 どこまでも続くライトアップされた光景。しかし私たちはふたりとも、それを楽しむ余裕なんてない。
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