俺様社長と極甘オフィス
「藤野、いつもありがとう。個人的なことに巻き込んでごめん」

 急に神妙な面持ちで告げられた社長の言葉に私は目を白黒させた。そしてふっと微笑んでからデスクにカップを置き社長と目線を合わす。

「かまいませんよ。私も気になりますし。それに秘書として頼ってくださって、信頼してもらえて嬉しいです」

 前一氏の遺言の件は、本来は親族の問題であり、他言無用のことだ。いくら五十二階への行き方を調べるのに時間がないとはいえ、社長は私に話してくれて、頼ってくれた。

 私になら話してもいい、と思ってくれたのだ。それが嬉しくて。だから私にできることは精一杯応えたい。そんな思いで告げると、社長がゆっくりと私を正面から抱きしめた。

 椅子に座ったままの体勢だったので、どちらかと言えば、私は受け止める側だ。

「どうされました?」

「うん、藤野がそばにいてくれて本当によかったなって思って」

 顔は見えないが、声がどこか弱々しかった。いつもの冗談というわけではない。それくらいは私にもはっきり分かる。

 残された者たちで、社長だけがこうして五十二階へ辿りつくために必死になっている。それはきっと思ったよりも孤独で、さらには有益な情報も時間もない中、心折れそうになるときだってあるに違いない。
< 41 / 100 >

この作品をシェア

pagetop