俺様社長と極甘オフィス
 私は珍しく、社長の背中に腕を回した。そして、子どもにするように背中を優しくさすってみる。本当は子どもの頃に、こうしてたくさん抱きしめられて、愛情を注がれるはずだったのに。

 なんとなく社長が充電と称して私と接触を求める理由が分かった気がする。子どもでも、大人でも、人肌は気持ちを落ち着かせてくれるし、癒されるものだ。

「社長がこのビルのことを、おじいさまのことを大事に思っているの、ちゃんと伝わっています。どこまでお役に立てるか分かりませんが、最後まであきらめず五十二階を目指しましょうね」

 そう言うと社長はなにも言わないままさらに私を強く抱きしめた。少しだけ痛くて息も苦しい。でも嫌じゃない。嫌なわけがない。だって私は――。

 そこですぐに溢れそうになる気持ちに蓋をする。

 信頼してもらえて嬉しかった。でもそれは、秘書としてだ。それなら私は“秘書として”社長を裏切るわけにはいかない。

 彼にとっては、私は秘書であり、気晴らしにヘリにも乗れる、こうして充電にさえ対応できる都合のいい存在なのだ。

 だから、そばにいてくれてよかった、と思ってもらえる。恋人や母親以上に必要としてもらえる。でもそれは、彼の心の底から寄り添えるような相手にはけっしてなれないということだ。

 それでいい。これ以上のことは望んでなんかいない、いけないのだ。
< 42 / 100 >

この作品をシェア

pagetop