俺様社長と極甘オフィス
「なら、藤野が恋人になってくれる?」

 今、なんて? 音となって言葉はきちんと私の耳に届いたのに、それから意味を理解するための脳の処理がフリーズしている。おかげで私は状況についていけなかった。

 顔を埋めていた社長が、いつの間にかじっと私を見上げている。その表情は読めない。瞬きさえもできずに固まっていると、いきなり回されていた腕の力が緩んだ。密着していた部分が離れて、篭っていた熱を放散する。

「ごめん、冗談だよ。そんな顔しないで」

 笑みを浮かべながらも、その表情はなんだか痛みを堪えているようだった。おかげで私は言葉が出てこない。今まで冗談なんて散々言われてきたのに。そんなひどく傷ついたような表情は初めて見る。

 落ち着け。今、彼は色々なことがあって気持ちが落ちているのだ。だから、あんな冗談を言ったのだ。私がここで真面目に受け取ってしまっては余計に気を遣わせてしまう。しっかりしなくては。それなのに。

「今日はもう帰ろう。送っていくよ」

 なにもフォローできないまま、社長にそう促されて、私は軽く頷けただけだった。今まで思わせぶりの発言を散々されて流してきたけど、あんなストレートなものは初めてだ。

 勝手に速くなる鼓動を落ち着かせようと必死になりながら、私はやはりなにも言えないまま社長のあとを追いかけた。
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