俺様社長と極甘オフィス
『藤野さん、だよね。よかったらこのあと食事でもどうかな?』

『食事、ですか?』

 言われた言葉を咀嚼しようと、そのまま訊き返す。どうしてそんな話になるのか。しかし彼は笑顔のままだった。

『アメリカにいて免許をとったんだよね? 俺、ヘリのことは全然詳しくないから、ちょっと興味があって』

 そこで私は、同じように試験を受けに来ていた知り合いの男性パイロットのことを思い出す。

『それなら、誘うのは私ではなく、同じように試験を受けられていた小坂(こさか)さんの方がいいと思いますよ。あの方も留学して免許を取られたって聞いてますから。私よりも実務経験も豊富ですし』

 そう提案すると彼は大きい瞳をさらに大きく見開き、ややあってから、くっくっと喉を鳴らして笑い出した。なにがおかしいのかまったく理解できず、どうしたって訝し気な視線を送ってしまう。

『ごめん、ごめん。まどろっこしい言い方して。実はあまり公にはできないけれど、藤野さんはほとんど決まりで話が進んでいるから、それで』

 今度は私が目を丸くする番だった。もちろん採用は私だけではないだろうが、どうして私が決まったのか、少し疑問だった。

 先ほどの小坂さんにしたって、私よりも経験豊富なパイロットは何人も受けに来ていたし。その顔色を読んだかのように彼は続ける。

『いや、だって若い女性のパイロットってなかなか貴重だし』

 その発言に、私は体の芯が冷えていくような感覚を覚えた。だから、と話を続けている彼の話も耳に入ってこない。衝動的に言葉が出る。
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