俺様社長と極甘オフィス
そろそろ気づかない?(伝わってる?)
「藤野! パスワードが分かったって!?」

 勢いよく社長室に飛び込んできた社長に目を向けて、お疲れ様です、と告げてから頭を下げる。あの電話を切って十五分もしないうちに彼は会社にやってきた。

 仕事でもないのに、ばっちりとスーツを着ていることが、彼が今までお見合いをしていたことを物語っていたようでどこか切なくなる。

「はい」

「それで、どんな数を入力すればいいんだ?」

 気持ちが急いている社長に私は答えるかどうか迷う。なんとも言い表しづらい数だ。なので共に五十二階に足を運ぶことにする。

 五十二階に向かう途中、美代子さんが来ていたことを報告することにした。一応、再婚の話もちらりとすると、社長は大きい目をさらにまん丸くさせた。

「それは一応、おめでとうと言うべきなのか?」

「倉木さんは、バツ四になるのだけはやめてほしい、と言ったそうです」

「あいつらしいな」

 自然と笑顔になる社長の顔に胸が高鳴る。お見合い手の人にも、こんな顔を見せたんだろうか。

 私はわざとらしく社長から目線を逸らした。もうすぐ五十二階に到着だ。そこには、再びロックされているドアと数字の並んだモニターが我々を待ち構えていた。
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