恋愛上手な   彼の誤算
「怖かったな」

そんな優しい言葉ばかり。心がほどけていくようで弱い部分が剥き出しになってしまう。

「どうして、いつもこうなの…もっと、ちゃんとしたいのに…怖いって思いたくないのに…だから、恋の一つもできないダメな人間なんだって……っ」

こんなこと言うなんてどうかしてる。
分かってるのに止められなくて。
不甲斐ない自分に悔しくて堪らなかった。

「じゃあ、俺で練習する?」

場にそぐわないくらいその声は軽快なものだった。

「え……」
「本気で好きにならないなら、きみの恋人になるけど」

それはあまりにも唐突で突拍子のない申し出で。
だけど、嫌気が差していた自分に差し伸べられた希望のようにも思えて。

「……お願いします」

その時の私にはそれを断る選択肢がなかった。この人が私を変えてくれるかもしれないと漠然と感じていた。

「じゃあ契約成立ってことで」

ふいに近付いてきた顔はリアクションする間もなく、ちゅ、と頬にリップ音を残して眩しいくらい爽やかな表情で笑った。




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