恋愛上手な   彼の誤算
「ねぇ、ところでそれ何?」

顔を上げると相沢さんの視線は私の手の中だった。

「あ、これ……相沢さんに渡そうと思って」

昼間のお礼にと自販機で慌てて買ったものだ。少しぬるくなってしまったけれど、改めてお礼を言わなくてはとそれを差し出した。

「あの、昼間とそれからさっきも、ありがとうございました!」
「どういたしまして。……おしるこ?」
「えっと、相沢さんお昼ココア下さったので、ココアにしようと思ったらココアなくて、甘党なのかなって思ったらこれしか……」

受け取ってくれたものの不思議そうに眺める缶に失敗したかと言い訳を告げると突然相沢さんが「ははは」と笑い出した。

「そっか、ありがと。おしるこ貰うのは初めてだ。うん、俺甘党だからおしるこも好き。わざわざどうも」
「いえ……」
「いやーほんと面白いな、西本さん」

別に笑いを取りにいったわけではなかったのだけど。よく考えればカフェオレあたりが無難だったのかも知れない。
だけど、屈託なく笑う相沢さんの顔を見たらまぁいいかと思えた。

「あ、西本さん笑ったとこ初めて見た」
「わ、笑ってなんかいません…」
「うん、普段も可愛いけど笑った方がもっと可愛いよ」
「っ」

そんなお世辞がナチュラルに出てくるだなんて信じられない。本気にとったわけでもないのに赤面する自分が悔しい。
とここまで回想してまた顔が熱くなるのを感じて残り少なくなったカレーをスプーンで集めて口に放り込んだ。

「あ、西本さんいたいた」
「ンン…ッ!」

唐突な声に顔を上げると今の今まで頭の中に浮かんでいた人の顔で、思わずカレーが飛び出す所だった。
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