プラス1℃の恋人
 女三人寄れば、とはよく言うが、同期社員の近況やお局さまの話題など、女子3人のトークは尽きない。

 そしておかわりのビールが運ばれてきたころ、突然のサプライズがあった。

「おまえらもここで飲んでたのか」

 通路に立っていたのは、いかにも仕事帰りといういでたちのサラリーマンがふたり。
 千坂と二階堂だった。

「噂をすれば」と言いたげな紫音を視線で制し、「偶然ですね」とふたりに笑顔を向ける。

「おふたりとも、ここにはよく来るんですか?」

 桃子がそう言うと、二階堂が極上の王子様スマイルを放った。

「大事な取引先だからね。新作ビールの評判も聞きたいし」

 薄暗い居酒屋の店内でも、二階堂の笑顔はキラキラとまばゆい。
 でも。

 ――これは絶対に狙って来たよな。
 青羽は心のなかで突っ込みをいれる。


 ボーナス支給直後の金曜日。
 帰りぎわ、桃子の席で今夜の女子会ことを話していると、以前青羽が座っていた席に引っ越した二階堂と目が合った。
 どうやらふたりの会話に聞き耳を立てていたらしい。

 桃子はにぶい。
 見ていて気の毒になるくらい、二階堂のアプローチに気付かない。
 今日もたぶん、二階堂のけなげな策略も空振りに終わるだろう。


 そのとき、二階堂が青羽に意味ありげな視線を送ってきた。

〝須田さんって、桃ちゃんと仲がいいんだよね。今度いろいろと協力してね〟

 ああ、そうでした。
 私は腹黒王子に弱みを握られていたんでした。

「よかったら、一緒に乾杯しませんか?」

 青羽は席を詰め、場所を空けた。

「じゃ、お言葉に甘えて」

 すかさず二階堂が桃子の隣にすべりこむ。
 千坂も「悪いな~」と言いながら、青羽の隣に腰をおろした。
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