プラス1℃の恋人
 話はうまくまとまり、仁科が「じゃあ、これで」と席を立つ。

 その場で見送ったあと、千坂はほっとしたように椅子に背中をあずけた。

「須田……ほんと助かったよ」

「ひとこと言ってくれたらよかったのに……って、秘密にしておくように言われていたんですっけ」

「すまん」

「それにしても、〝灯台もと暗し〟ってやつですね。まさか会社の真上に、目的のビールがあったなんて」

「ああ。だが、正直難しいと思った。仁科さんはああ見えて、かなりシビアに人を見る。おまえを連れてきて正解だった」

 その言葉は、いままで聞いたどの言葉よりも、青羽を嬉しがらせた。

 それに、信頼できるひとりを紹介してくれと言われて、千坂は青羽を選んでくれた。

 今日のディナーは告白の場所ではなかったけれど、それよりもずっと、青羽には意味のあることだった。
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