プラス1℃の恋人
 お互いに引き寄せられるようにして、もう一度唇を重ねる。

 青羽の顔を閉じ込めるようにして千坂は何度もキスを落とした。

 こんなふうにあの夜も、大事なものを扱うような優しいキスをされたような気がする。
 高まってゆく体が、忘れていた記憶をよみがえらせる。


 千坂が逞しい腕で青羽を抱き上げた。
 部屋の奥にあるベッドに降ろされ、これから起こることへの期待が高まってゆく。

 ベッドサイドに立った千坂がワイシャツのボタンをひとつずつ外す仕草に、どうしようもなく感じてしまう自分はどこかおかしいのだろうか。

 服を脱ぎ終わり、千坂が青羽のとなりに大きな体を横たえる。
 弾力のある肌は、ひんやりとして心地よかった。

「青羽」

 初めて名前を呼ばれた。

 胸の奥から苦しいほどの愛しさがこみあげてきて、なぜだか涙がこぼれ落ちた。
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