プラス1℃の恋人

【11】昔の恋の話

 カーテンの隙間から光がこぼれていた。

 時計を見ると、朝の5時。
 まだ眠っていたいのに、体内時計がいつもの起床時刻どおり「起きろ」と脳を刺激する。

 そうこうしているうちに、おなかもグゥと鳴った。
 どうやら腹時計も正確らしい。

 体のあちこちが、慣れない痛みとだるさで悲鳴をあげている。
 その原因をつくった硬い腕の主は、青羽の体を閉じ込めながらすやすや寝息を立てていた。
 ウエストに回された腕が、呼吸に合わせてゆっくり上下する。

 昨夜あれだけ燃えた体は、今はほんのり汗ばんで、心地よく青羽の体の熱を冷ましてくれている。

 ベッドサイドに置かれているペットボトルの水を飲みたいのだが、太い手足ががっしりと絡みついて身動きがとれない。

 そっと体の上に乗せられている腕をどかし、どうにかペットボトルを手にすることができた。
 キャップを外してごくごくと喉を鳴らして水分補給。
 ようやく体に潤いが戻ってきた。


 約束どおり、これが最初で最後。

 少し開いたぽってりした唇と、クマみたいな外見に似合わない長い睫毛を持つ上司。
 こんな無防備な顔は、いままで見たことがない。

「ありがとうございました」

 すてきな夜を、今度は記憶に刻み付けることができた。
 恋しい人の寝顔に、最後のつもりでキスをする。

 そのとき、寝ていたはずの千坂が青羽の両腕を掴んだ。
 そして体の位置を変え、青羽の体を組み敷いた。

「今日と明日は休みだから、まだ時間はあるよな」

「え……? ちょ……!」

 夜が明ける直前までずっと繋がっていたというのに、まだこれ以上続けるというのか。

 千坂は問答無用で唇を首筋に押し付けてくる。

 なんども愛されて、体中に紅色のあざがついていた。
 一度火がついてしまったら、とことん貪り尽くす性分らしい。

 けれど、触れられると抵抗できなくなってしまう。
 あっというまに陥落させられ、千坂の腰の上に青羽は足首を絡ませた。

 とろけきっている体は、すんなりと情熱を受け入れた。
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