プラス1℃の恋人
 しばらく本を読んでいると、スマートフォンが震えた。
 児嶋からのメッセージが届いている。

『すみません。ちょっと遅れます。先にレストランに向かっていてもらえますか?』

『了解しました。気をつけて帰社してね』

 時刻は、18時40分。
 予約は19時だったはずなので、化粧を直してから向かえば、ちょうどいいか。

 たしか、いちどエントランスまで下りて、あらためて専用エレベーターに乗るんだったっけ。

 そんなことを考えながら、倉庫の扉を開けた。
 するとクマみたいな図体の男と、うっかりぶつかりそうになった。

「おわっ! びっくりした!」

 1メートルは横に飛んだだろうか。

「千坂主任!? すみませんっ!」

 こんなシチュエーションが、以前もあったような。
 でもそのときは、青羽が故意に千坂を驚かせたんだったっけ。

「いままで残業してたんですか?」

「ああ。二階堂からの連絡を待っていたんだ」

 どうやら二階堂の取引先には、千坂も関わっているらしい。

「うまくいったんですかね」

「ああ、首尾は上々だ。あとは俺の言葉に、相手がYesと言ってくれればいいんだがな」

「大役ですね~」

 担当営業者は二階堂のはずだが、マーケティング部の千坂がクロージングをするらしい。

 そういえば、去年も児嶋のミスをカバーして契約を取り付けたのは、千坂だったな。

 やっぱりこの人はすごいんだなあ。
 青羽はしみじみ思った。
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