プラス1℃の恋人
「さてと」

 千坂はデスクの上の書類を手にとる。
 部下から提出された原稿のチェックをしなくてはならない。

 千坂が働いている『クラフトビール・マーケティング・ジャパン』が、日本の地ビールを流通販売させている会社だというのは前述したとおりだ。

 最近では海外からの注文が多く、わが社が運営するポータルサイトでも、日本語と英語の両方が表示されるようになっている。

 ありがたいことに千坂には、英文に長けている部下がいた。
 須田青羽。入社3年目の女子社員だ。

 見た目はいまどきのOLで、休み時間にはいつもファッションやグルメのフリーペーパーを読んでいる。

 だが仕事は正確、丁寧、しかも速い。
 それに、商品のよさを、わかりやすくてユーモアのある英文に翻訳してくれる。

 この夏、たくさんの新製品が発売された。
 ひとつでも多くの商品を扱うことができれば、それだけ取引先の幅が広がる。
 
 スケジュールは少々ハードだが、須田青羽がいれば大丈夫だろう。
 須田が原稿を書き、専門用語は自分がチェックして余裕で終了。

 余裕、余裕。
 の、はずであった。
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