強制両想い彼氏

皐月くんは私の鞄に手を伸ばすと、永瀬くんから貰ったキーホルダーをちぎり取った。


「これ、今朝自分で取ったって言ってたよな」

「そ……れは……」

「昨日も、帰りが遅くなったのは中学の時の同級生の女の子と偶然会って話してたからだって言ってたよな」


何も答えられずに黙っていたら、それまで不気味に笑っていた皐月くんがぴたりと笑うのを止めた。


「お前が最近俺に嘘をつくようになったのも……お前が最近俺を避けるようになったのも……全部……あいつのせいだ」


皐月くんはそう呟いて、キーホルダーを力任せに捻った。
するといとも簡単にキーホルダーの首が取れ、中に詰まっていた綿が溢れ出す。
皐月くんはもぎ取ったキーホルダーの頭を床に放り投げると、落ちたそれをギュッと踏みつけた。
残った胴体も床に叩きつけ、床に綿が散らばると、皐月くんはふ、と小さく笑みを浮かべた。


「なっ……なにするの!?」


ボロボロになったキーホルダーを拾おうとしたら、皐月くんはキーホルダーを蹴ってそれを阻んだ。
蹴られたキーホルダーの胴体は綿をこぼしながら飛んでいき、ロッカーの下の隙間に入ってしまった。


「ひどいよ皐月くん……なんでこんな……」

「ひどいのはお前だよ」


皐月くんは踏みつけていたキーホルダーの頭を拾い上げた。
踏まれたせいで、ずいぶん汚れて黒くなったそれを見て、皐月くんは鼻を鳴らして笑った。


「なるほどね……これ、永瀬から貰ったんだな。そりゃちょうだいって言ってもくれるわけないよなぁ……」


皐月くんはキーホルダーの頭をゴミ箱に向かって放り投げた。
カシャン、という音と共に、キーホルダーはゴミの中に呆気なく埋もれた。

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