強制両想い彼氏

「そういえば、今日の生物の時間さ、先生すっげー面白かったんだよ」


私が黙っていたら、皐月くんから口を開いてくれた。
多分今私たちが話し合いたいと思ってることとは全く関係ない、他愛のない話。
皐月くんは優しいから、きっと空気を和ませようとしてくれているんだと思う。
私が色々話しやすくなるように。
皐月くんは気を遣って、こんな風に他愛ない話をしてくれている。
それは分かってる。


でも、私はそれを黙って聞いていられなかった。


「……皐月くん」

「ん?」

「さっき……永瀬くんの脚、蹴ったよね」


私のその一言を聞いた瞬間、皐月くんの目の色が変わった。


深い深い闇の底を覗き込んだような色の瞳に見つめられ、ぞわぞわとお腹の底から湧き上がって来る恐怖に体が震え出した。


「なーんだ……見てたの?」


何が面白いのか、皐月くんはくっくっと喉を鳴らして笑い始めた。


「誰にもバレないように上手くやったつもりだったんだけどな……まさか、お前に見られてたなんて……」


その衝撃的な返答に、もはや反射的に反論していた。


「なっ……んで……!なんで!?なんであんなことしたの!?」

「え?なんでって……もう二度とサッカーやれない体にしてやろうと思って」

「ッ……!?」


信じられない言葉に思わず声を失うと、皐月くんは不思議そうに首をかしげた。
それから「ああ」と声を漏らして小さく笑うと、納得したように話し始めた。


「なんであんなことしたか、気になる?」


私が小さく頷いたのを確認すると、皐月くんは綺麗に笑った。


「そんなの……俺からお前を奪おうとしたからに決まってんだろ?」

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