愛し君に花の名を捧ぐ
「それで、その……実際にお会いした西姫様に、驚いてしまって」

「がさつでわがままで、子どもっぽかったから?」

 自覚している己の欠点を挙げ自嘲する。こんな自分だから、苑輝に帰れと言われ続けてしまうのだろうか。
 儚げな笑みを浮かべたリーリュアを、紅珠は夢中で首を振って否定した。

「そうじゃないんですっ!! 私たちとあまりに違うから。姫様の御髪は蜘蛛の糸みたいに細く柔らかくて、自分の髪と同じように扱えば切れてしまいそうですし、宝玉のような色の瞳は、その……」

「なに?」

「ちゃんと見えていらっしゃるのでしょうか? こう、全体的に緑がかったりされているのではありませんか?」

 リーリュアはその目を何度も瞬かせたあと、たまらずに吹き出した。

「産まれたときからこの目だからほかを知らないけれど、たぶん、あなたと同じ景色が見えているはずよ」

「え? そうなのですか」

 真剣に、不思議そうにリーリュアの瞳を覗き込んでくる。

「わたくしは紅珠の、コシのある真っ直ぐな髪が羨ましいわ」

 艷やかな黒髪を撫でると、紅珠は頬を赤くした。

「たとえ見た目や話す言葉が違っても、みんな同じ人間。楽しければ笑うし、悲しいときは泣いてしまう。それはだれでも同じでしょう? だからお願いよ。“わたくし”自身を、みて……」

 リーリュアの視界がぼやける。椅子の上で身体が不安定に揺れた。

「西姫様っ!?」

 紅珠は握られたままのリーリュアの手がやけに熱いことに気づく。目を閉じ荒い息遣いを始めた主人の額に手を当てると、大声で叫んだ。

「颯璉様、颯璉様っ!!」

 にわかに騒がしくなる周囲を不思議に思いつつ、リーリュアの意識は深く堕ちていった。
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