偽りの先生、幾千の涙


納得すると、俺は前向きに物事を考える事が出来た。


まずは出来るだけ早く、父さんに今日の事を報告しなければならない。


それと今聞いている榎本悟郎の動向の整理、あとは…薬の用意はしてあるし、お嬢様を迎えるためのお茶の用意もしておくか。


口にするかは分からないが。





そんな事を考えていたら、イヤホンから気になる言葉が聞こえてくる。


「お久しぶりです、国木田先生。
お元気でしたか?」


「おかげさまで。
榎本さんも相変わらずお元気そうで何よりです。
…早速仕事の話をしたいのですが、その前に1つよろしいですか?」


「何でしょうか?
貴方から話を持ってくるなんて珍しい。
こちらに有利な話でもありましたか?」


「逆ですよ。
榎本さん、果穂ちゃんの担任の先生をご存じですか?
若い男性で、伊藤貴久というらしいのですが。」


「いいえ、知りませんでしたが…その男がどうかしましたか?
うちの娘や花音ちゃんを誑かしているのですか?」


「そこまではまだ。
ただ…どうも経歴がおかしいのです。
少なくとも、履歴書に書いている大学は卒業していないかと。
教員免許を持っているかどうかも怪しいです。
今調べているのですが、足取りが掴めなくて…」


「それは心配だな。
だが…天下の国木田弁護士が調べても足取りを掴めないというのは、強敵ですな。」


「申し訳ございません。
ただ…果穂ちゃんがお住まいのマンションに出入りしているのは何度も確認しています。
住民なのか、友人の家に行っているのかは分かりませんが…気を付けていただきたくて、今回お話ししました。」


「そうか…ご報告ありがとうございます。
私もそうですが、娘にも気を付けるように言い聞かせます。
…さて、そろそろ本題なのですが…」

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