偽りの先生、幾千の涙
「怪我しちゃって…気を付けなよ。
特に一人で歩いている時は。」
言いながら、あたしの頭のてっぺんから爪先まで、観察するようにじっくり見ている。
「水仙のお嬢様がこんなところでサボり?」
「えっと…サボりっていうか…サボったわけじゃないけど…えっと…」
何処から説明したらいいか分からなくて困っていたら、貴久君はあたしに背中を向けた。
「ちょっと待ってて。」
小走りで行ってしまったと思うと、彼はバイクを押してこっちへ戻って来た。
貴久君はバイクに座るように言ってくれて、あたしはご厚意に素直に甘えた。
「ありがとう。」
一歩動く度に辛かったから、かなり助かった。
「どういたしまして。
ねえ、お礼に一つ教えて?」
何を教えたらいいんだろう。
よく分からなくて、貴久君の顔を見ると、いつもの…いや、いつもと言っても、会って2日目なんだけど、でもさっきまでの彼と違った顔をしていた。
でも…見た事のある顔だった。
「花音ちゃん、何処まで知っているっていうか、知っている事ある?
榎本果穂の誘拐について。」
「え…」
果穂ちゃんの誘拐について?
どうして貴久君がそんな事聞くの?
あたしはまたパニックになって、俯いてしまった。