偽りの先生、幾千の涙
「落ち着いて。
知らないなら知らないでいいから。」
いつになく冷たい声に、あたしは怯えてしまう。
学校から逃げ出しても一緒だった。
どうして貴久君がこんな事聞くのか分からないけど、あたしは貴久君の役にも立てていない。
「ごめん、知らない。
果穂ちゃんから連絡ないし…
でも、どうして貴久君がそんな事聞くの?」
貴久君、果穂ちゃんの知り合いとかかな?
あたしが貴久君の顔を覗くと、貴久君は溜め息を吐いて頭の方に手を持っていく。
すると黒い髪の下から明るい茶色が出てくる。
それからネクタイを取って、Yシャツのボタンを2つ外すと、見覚えのある人に変わっていく。
1度だけ、果穂ちゃんのマンションのエントランスで会った人だ。
「えっと…伊藤先生の弟さん?」
「ピンポーン。
よく覚えてたね。
で、俺も兄さんと連絡取れてないんだけど、何か知らない?」
「え?
えっと、だから…」
貴久君が…海斗さん?
で、海斗さんも伊藤先生と連絡取れないから、あたしのところに来たの?
でもどうして、あたし?
「マジか、あんたも知らないのかよ。
参ったな。」
「ごめん。」
「謝んなくていいけどさ…」
貴久君はとても悔しそうだった。