偽りの先生、幾千の涙


「落ち着いて。
知らないなら知らないでいいから。」


いつになく冷たい声に、あたしは怯えてしまう。


学校から逃げ出しても一緒だった。


どうして貴久君がこんな事聞くのか分からないけど、あたしは貴久君の役にも立てていない。


「ごめん、知らない。
果穂ちゃんから連絡ないし…
でも、どうして貴久君がそんな事聞くの?」


貴久君、果穂ちゃんの知り合いとかかな?


あたしが貴久君の顔を覗くと、貴久君は溜め息を吐いて頭の方に手を持っていく。


すると黒い髪の下から明るい茶色が出てくる。


それからネクタイを取って、Yシャツのボタンを2つ外すと、見覚えのある人に変わっていく。


1度だけ、果穂ちゃんのマンションのエントランスで会った人だ。


「えっと…伊藤先生の弟さん?」


「ピンポーン。
よく覚えてたね。
で、俺も兄さんと連絡取れてないんだけど、何か知らない?」


「え?
えっと、だから…」


貴久君が…海斗さん?


で、海斗さんも伊藤先生と連絡取れないから、あたしのところに来たの?


でもどうして、あたし?


「マジか、あんたも知らないのかよ。
参ったな。」


「ごめん。」


「謝んなくていいけどさ…」


貴久君はとても悔しそうだった。


< 293 / 294 >

この作品をシェア

pagetop