あの日、あの桜の下で
そして、平々凡々な私とはかけ離れた彼の生い立ちも、うわさ話として私の耳に入ってきた。
彼の両親は海外で仕事をしているらしく、彼も中学二年まではアメリカで生活していた。母親について日本に帰ってきたのは、お祖母さんの介護が必要になったからだった。
飛び抜けた頭脳と、それに見合った整った容姿。スポーツも無難にこなし、それでいて気さくで屈託のなかった彼は、当然のように人気者になった。
それに引き換え、こんな取り立てて特徴もなく集団の中で埋もれてしまう私。こんな私のことなんて、覚えてくれてるはずがない。
でも、優秀な頭脳の持ち主である彼が、あの桜の下での出来事を忘れたりするだろうか……。
そんな心に引っかかる些細なことが、私の中でどんどん大きくなって……、私が彼に恋をするのに、あまり時間はかからなかった。
でも、彼とはクラスも違ったし、話しかける勇気もなく、ただ遠くからあこがれの目で見ているだけの恋……。
「おい、尊?この英語の歌詞、なんて言ってる?訳してみてくれよ!」
「うん?ちょっと聴かせて」