強引同期に愛されまして。
マンションは親の持ち物とか言ってたし、車も持ってるらしいし、ああなんかいろいろ納得だ。
「アンタお坊ちゃんなの?」
「は? 何言ってんだよ。お前と同い年だぞ? 三十歳をお坊ちゃんとは言わねぇだろ?」
「そういう意味じゃないわよ」
駄目だ、話が通じない。
こいつのコミュニケーション能力をもう少し鍛えなければ。
「とにかく。俺が片付けてる間に準備しろよ。大きい荷物は週末でいいだろ。とりあえず数日仕事に行けるだけ持って行けよ」
人の話を聞かないまま、コーヒーカップの片付けを始める田中くん。
これ以上諭す気力もない私は、言われるがままスーツと着替えと化粧ポーチをスーツケースに詰め込んだ。
いきなり言われても頭がまわらないなぁ。
あと何が必要だろう。部屋着と、ああ靴も持っていきたい。一足じゃ足りないよなぁ。
女の荷物というのは本当に多いのだ。
しかも私は旅行とかにも大荷物で出かけてしまうタイプなため、スーツケースだけでは入りきらず、旅行カバンをもう一つぱんぱんに詰めて、ようやく荷造りを終えた。
これで週末まで四日。いけるかな、どうだろう。
「ほんと、女って荷物多いなー」
なんてぶつぶつ言いつつ、彼はそれをもって歩き出した。
「コンビニまでちょっと歩くからな」
「うん」
「なんでこのアパート、エレベーターねぇんだよ」
「四階建てなんだからあるわけないでしょ。いいじゃない、うちは三階なんだからそんなに高くない」
彼の文句と階段を下りる音が交互に響く。いつもなら全くうざい男だと思うところだけど、今日は胸が弾んでいる。
文句を言いつつ、荷物を持ってくれたりと優しいからかな。
それとも、予想外な同棲にもつれ込みそうな予感のせいか。
分からないけど。
なんだろ。今私は、結構幸せな気分だ。