世子様に見初められて~十年越しの恋慕
夢中になると、周りが見えなくなってしまう性格のソウォン。
そんなソウォンの性格を熟知しているチョンアは、“また始まった”と頭を抱えた。
一先ず、怪我をしては大変だと思い、チョンアは足下の書物から片付け始めた。
「どこで見たのかしら……?」
ソウォンは険しい顔つきで、大量の書物に埋もれている。
「お嬢様。一体、どのような書物をお探しなのですか?この部屋の書物でしたら、大抵のものは存じております。仰って頂けたら、お探し致しますが……」
さすがに終わりが見えそうになく、チョンアは困り果てていた。
片付けた傍から散らかされては、他の仕事まで手が回らないのだ。
すると、ソウォンはおもむろに筆を取り、紙に何やら書き始めた。
「こういう感じの文字のような記号のような形が記されている書物を見たことがある?」
ソウォンが記したのは、三のように横線が縦に三つ連なったものや、二二のように横線が縦に二つ連なったものが横にもう一つあるようなものだったり、一のように一本線の下に二のような横線が二本あるものが付いているようなものだった。
「こんな感じにね、組み合わせは多様で、一つで形を成すものやこれらが二つ合わさって形を成してるものが、文字のように記されてる書物なんだけど……」
「申し訳ございません、お嬢様。私は初めて見ました、このようなものは……」
「……そう。やはり、父上の部屋かもしれないわね」
ソウォンの部屋にはかなり大きめの書棚があり、それ以外にも書物を保管する小部屋のようなものがある。
だが、それらを隈なく見たのだが、お目当ての書物は出て来なかった。
「お嬢様、これは一体何なのです?どこかの国の文字でしょうか?」
「分からないわ。でも、随分と昔に見た記憶があるの。見ても全く分からなかったから、その時は気にも留めなかったんだけど」
「それが、何か……?もしかして…………?」
「えぇ。昨夜、戸判様のお屋敷で見たの。これと同じようなものが書かれている木札を。世子様が極秘でお探しの物が、恐らく………それよ」
「…………」